日本の街を歩いていると、多くの一戸建てやマンションの最上階が、まるでナイフで一角を削ぎ落としたように斜めの形になっているのに気づきます。この独特の設計は、実は日本国憲法第13条の「幸福追求権」や第25条の「生存権」(健康で文化的な最低限度の生活)を実現するため、建築基準法のもとで人々の日照・採光・通風を守るために設けられた「斜線制限」によるものです。
最も一般的な三大斜線制限が、建物の形にどう影響するのかを見ていきましょう。
【道路斜線制限 ── 全国・すべての用途地域で適用】
保護の対象:建物の前面にある「道路」。
制限の内容:道路の反対側の境界線から斜線を引き、建物の高さはその線を超えてはいけません。道路が狭い場合、建物はより低く抑えるか、後退(セットバック)させる必要があります。

【北側斜線制限 ── 住宅地における規制の大ボス】
保護の対象:「北側の隣家」。
説明:日本は北半球に位置し、日光は南から差し込みます。建物が高すぎると、北側の隣家の採光が遮られてしまうため、適切な規制が必要となります。
制限の内容:適用される用途地域は「低層/中高層住居専用地域」です。これらの地域にある建物は、北側の境界線から一定の高さ(5mまたは10m)まで立ち上げたあと、斜線で折り曲げられます。これが、多くの日本の住宅で北側の屋根が斜めにならざるを得ない理由です。

【隣地斜線制限 ── 高層の建物が対象】
保護の対象:「左右や後方の隣家」。
説明:隣のビルが高すぎると、近隣に圧迫感を与え、採光や通風にも影響が出ます。
制限の内容:この制限は、一般的な一戸建てにはほとんど関係ありません。計算の起点となる高さが20mまたは31m以上(おおよそ7階建て以上の建物)だからです。そのため、ビルやオフィス、高層マンションを建てるときにのみ、この斜線制限によって斜めの形に「削られる」ことになります。

以上の三つの斜線制限のほかにも、高度地区や日影規制といった規定があります。これらの法規制を理解しておけば、土地を買ったのに思っていた面積(坪数)を建てられない、という事態を防げます。次回は、これら二つの規定と斜線制限がどのように影響し合うのかを取り上げます。
